「お部屋のこの隙間に、ぴったり収まる棚があったらなあ」
「自分の持っている本の高さに合わせた、理想の本棚が欲しい」
インテリア雑誌を眺めたり、素敵なお部屋のSNS投稿を見たりしていると、そんな風に「オーダー家具(造作家具)」に憧れる瞬間、ありますよね。既製品にはない、自分だけの、世界に一つだけの家具。想像するだけでワクワクします。
でも、いざ検討してみようとすると、必ずと言っていいほどぶつかるのが「価格の壁」です。
「えっ、こんなに高いの!?」
既製品の数倍にもなる見積もり金額を見て、驚いてしまった経験がある方も多いのではないでしょうか。そして、そのあまりの高さに、憧れだったオーダー家具を諦めてしまう…。
とても、もったいないことです。
確かに、オーダー家具は既製品に比べて高価です。でも、その価格には、一つひとつちゃんとした理由があります。そして、価格の内訳を知り、少し工夫をするだけで、予算内で理想の家具を手に入れることも、決して不可能ではないのです。
この記事では、そんなオーダー家具の価格の「なぜ?」を、一つひとつ丁寧に解き明かしていきます。そして、賢くコストを抑えながら、あなたの夢を形にするための具体的なコツを3つ、ご紹介します。
これを読めば、ただ「高い」と諦めるのではなく、「価値ある投資」として、前向きにオーダー家具を検討できるようになるはずです。
まず、オーダー家具の見積もり書に書かれている金額が、一体何で構成されているのか、その「内訳」を見ていきましょう。大きく分けると、価格は主に5つの要素で決まります。
1. 材料費:家具の「体」を作る費用

これは、家具そのものを作るための木材などの費用です。使う材料の種類やランク、量によって価格は大きく変動します。
例えば、一本の木から切り出した「無垢材」は、その希少性や美しい木目、重厚感から、価格が高くなる傾向にあります。特に、ウォールナットやチークといった高級木材を使えば、それだけで材料費はぐっと上がります。
一方で、木のチップを固めて作った「パーティクルボード」や、薄い板を貼り合わせた「合板」の表面に、木目柄のシートを貼った「化粧板」などは、比較的安価です。
オーダー家具が高い理由の一つは、こうした高品質な材料や、お客様の希望に合わせた特殊な材料を選べることにあるのです。
2. 設計費:あなたの「理想」を形にする費用

これは、あなたの漠然とした「こんな家具が欲しい」というイメージを、実際に製作可能な「図面」に落とし込むための費用です。いわば、家具の設計図を描くための料金ですね。
お客様の要望をヒアリングし、設置場所の寸法を正確に測り、使い勝手やデザイン、強度などを考慮しながら、世界に一つだけの設計図をゼロから作り上げていきます。この作業には、専門的な知識と経験、そして多くの時間が必要です。
大量生産の既製品にはない、この「あなたのためだけの設計プロセス」こそが、オーダー家具の価値であり、価格に含まれる重要な要素なのです。
3. 加工費(人件費):職人の「技」にかかる費用

これは、設計図をもとに、職人さんが木材を切り出し、組み立て、仕上げていくための費用です。価格の中で、最も大きな割合を占めることが多いのが、この加工費、つまり「人件費」です。
考えてみてください。既製品の家具は、工場で機械によって、何百、何千という単位で効率的に作られます。一方、オーダー家具は、一人の職人さんが、一つの家具につきっきりで、木材のカットから、カンナがけ、組み立て、塗装まで、多くの工程を手作業で行います。
複雑なデザインや、精密な加工が求められれば、それだけ多くの時間と、高い技術が必要になります。職人さんの長年の経験と技術、そして手間ひまが、この加工費に反映されているのです。
4. 取り付け費:家具に「命」を吹き込む費用

これは、完成した家具をお客様のお家に運び込み、指定の場所に設置するための費用です。
特に、壁に固定するタイプの「造作家具」の場合は、ただ置くだけではありません。家の壁や床が完全に水平・垂直であることは稀なので、現場でミリ単位の微調整をしながら、まるで元からそこにあったかのように、ぴったりと美しく設置していきます。この最終的な仕上げ作業にも、専門の技術と経験が欠かせません。
5. 諸経費:工房を「支える」ための費用
上記の費用以外にも、工房の家賃や、機械・道具の維持費、電気代といった、工房を運営していくための様々な経費も、製品の価格に少しずつ含まれています。
さて、価格の内訳が見えてきたところで、いよいよ本題です。これらの費用を、どうすれば賢く抑えることができるのでしょうか。諦める前に試してほしい、3つのコツをご紹介します。
コストを抑えるコツ1:「デザインをシンプルにする」
最も効果的なのが、この方法です。前述の通り、価格に大きく影響するのは「加工費(人件費)」、つまり職人さんの手間です。
例えば、たくさんの引き出しや、凝った装飾、曲線的なデザインなどは、それだけ製作に時間がかかり、加工費が上がってしまいます。
そこで、まずは「本当にその機能や装飾は必要か?」と考えてみましょう。扉をなくしてオープンな棚にする、引き出しの数を減らす、直線を基調としたシンプルな形にする。たったそれだけで、加工費を大きく削減できる可能性があります。シンプルなデザインは、飽きが来ず、長く使えるというメリットもありますよ。
コストを抑えるコツ2:「素材選びを工夫する(適材適所)」
「どうしても無垢材の質感が好きだけど、予算が…」という方は、素材の使い分けを検討してみましょう。
例えば、一番目につきやすく、手で触れる機会も多い「天板」や「扉」の部分だけを、こだわりの無垢材にする。そして、普段は見えない棚の内部や、背面の板などには、コストの安い化粧板を使う。
このように、見える部分と見えない部分で素材を使い分ける「適材適所」の考え方を取り入れれば、全体の質感を損なうことなく、材料費を賢く節約することができます。これは、プロの家具職人もよく使うテクニックです。
コストを抑えるコツ3:「サイズや仕様をもう一度見直す」
当たり前のことですが、家具は大きくなればなるほど、材料費も加工費も上がります。設計段階で、「本当にこの大きさが必要だろうか?」と、もう一度冷静に見直してみましょう。
収納したいものの量を再確認し、少しサイズをコンパクトにするだけで、数万円単位で価格が変わることもあります。また、「可動棚(高さを変えられる棚)」の枚数を減らしたり、扉につけるダンパー(ゆっくり静かに閉まる機能)のようなオプション機能を見直したりすることも、コストダウンに繋がります。
オーダー家具は、高価です。しかし、その価格は、あなたの理想を叶えるための材料費、設計費、そして何より、職人さんの確かな技術と手間ひまに対する「対価」なのです。
既製品のように、買ってすぐに家に届くわけではありません。職人さんと何度も打ち合わせを重ね、完成を心待ちにする時間も、オーダー家具ならではの楽しみの一つと言えるでしょう。
そうして手に入れた家具は、あなたの家の空間に完璧にフィットし、使い勝手も抜群。何より、世界に一つしかないという満足感は、何物にも代えがたいものです。大切に使えば、何十年とあなたの暮らしに寄り添ってくれる、まさに「一生もの」のパートナーとなります。
今回ご紹介したコストを抑えるコツを参考に、ぜひ信頼できる職人さんや工房に、あなたの想いを相談してみてください。きっと、予算と理想のバランスが取れた、あなたにとって最高の答えを一緒に見つけ出してくれるはずです。

