規格外の空間で活きる、オーダー店舗什器の基本と進め方

皆さん、こんにちは。愛知県名古屋市千種区を拠点に、地域密着で建具・家具の製作から取付けまでを手掛けている有限会社太建です。


「気に入った物件なのに、選んだ什器(じゅうき/お店で使う棚やカウンターなどの備品)がどうしても入らない」「壁が斜めで、既製品の寸法がまるで合わない」。開業準備の途中でこうした壁にぶつかり、頭を抱えている方も多いのではないでしょうか。


結論からお伝えすると、既製の什器が入らないのは、物件選びを間違えたからではありません。既製品が「壁は直角、床は水平、天井高は標準的」という前提でつくられているためです。現場を実際に測って寸法から組み立てる方法に切り替えれば、その空間はそのまま活かせます。


この記事で得られる3つの重要ポイントは以下の通りです。

  • 既製什器が納まらない主な原因は、壁の傾きや柱の出っ張り、梁の下がりなど、建物側の条件にある
  • 寸法から製作する方法なら、「現場を測る→図面と仕様を決める→工場で作る→現場で取り付ける」の流れで空間に合わせられる
  • ただし万能ではなく、納期や仕様を決める時期、搬入経路など、発注前に押さえておきたい前提がある

難しく考えなくて大丈夫です。まずは全体像から、ひとつずつ整理していきましょう。





■ 「規格外の店舗」で既製什器が入らないとは、どういう状態なのか

規格外というのは、特別に変わった物件を指す言葉ではありません。今ある建物を使ってお店を開く場合、程度の差はあれ、どこかしらに「標準からずれた部分」が出てくるのがふつうです。


壁が少し斜めになっている、天井が低い、柱が室内側に出っ張っている。そうした条件がひとつでもあると、決められた寸法でつくられた既製品はそのままでは納まりません。


・どんな空間が「規格外」と呼ばれるのか

お店づくりの現場で「寸法が合わない」となりやすいのは、次のような条件を持つ空間です。


  • 壁と壁の角度が直角になっていない、いわゆる変形の間取り
  • 梁(はり/天井を支える横向きの構造材)が下がっていて、部分的に天井が低い
  • 柱型(はしらがた/壁面から出っ張った柱の部分)があり、壁が一直線になっていない
  • 床に傾きや段差があり、水平が取れていない
  • 間口や奥行きが、既製品のサイズ展開から外れている


ひとつずつ見ると小さな条件に思えるかもしれません。ただ、什器は壁や床に接して据えるものなので、こうした条件はそのまま納まりの良し悪しに直結します。


・既存物件を使う店舗ほど、規格外になりやすい理由は?

新しく建てる建物と違い、すでにある建物は長い年月のあいだに増築や改修を重ねていることが少なくありません。その過程で壁の位置がずれたり、床の高さが部分的に変わったりします。


国土交通省の建築物リフォーム・リニューアル調査によると、住宅以外の建築物のリフォーム・リニューアル工事の受注高は、令和6年度計で9兆6,984億円(前の年度と比べて7.7%増)となっています。つまり、新築ではなく「今ある建物を作り替えて使う」という工事が、それだけ数多く行われているということです。


お店の物件も同じで、以前は別の業種が使っていた区画を引き継ぐケースが大半を占めます。図面上の寸法と実際に測った寸法が一致しないという状況は、この分野では珍しくありません。ご自身の物件だけが特殊なわけではない、とまずは受け止めていただければと思います。


参照URL:

国土交通省 建築物リフォーム・リニューアル調査(令和6年度計)




■ 既製の店舗什器が規格外の空間に納まらない理由は?

既製品が入らない理由は、品質の問題ではありません。つくられる時点で置かれている前提が、お店の現場と食い違っているからです。

この前提の違いを理解しておくと、次に何を検討すればいいのかがはっきりします。


・既製品は「直角・規格寸法」を前提に作られている

量産される什器は、同じものを数多くつくることで価格を抑えています。そのためには基準が必要で、その基準が「壁は直角、床は水平、天井高は標準的」という考え方です。

この前提が成り立つ空間であれば、既製品はとても合理的な選択肢になります。価格も納期も読みやすく、あえて別注する理由はありません。


反対に、前提が崩れる空間では話が変わります。カタログ上の寸法と開口の寸法が一致していても、壁がわずかに傾いていれば片側だけ隙間が空きます。床に傾きがあれば、天板が水平に見えません。寸法が合っているのに納まらないという現象は、ここから生まれます。


・数ミリのズレが見た目と使い勝手に直結するのはなぜ?

什器や建具(たてぐ/扉や引戸、間仕切りなど、開け閉めする建築部材)は、人の目線が近い位置にあるものです。そのため、わずかなズレでも目についてしまいます。


特に影響が出やすいのが、見付(みつけ/正面から見える部材の幅)の不揃いと、扉の開閉です。扉は上下左右の隙間が均等であることを前提に動くため、枠が傾いていると引っかかったり、閉まりきらなかったりします。使い勝手に関わる部分なので、「見た目だけの問題」では済まないところが厄介なのです。


隙間を木材や幕板で埋めて処理する方法もありますが、後付けの部材が増えるほど仕上がりの一体感は失われます。無理に既製品を納めた結果、かえって見栄えを損なってしまうというのは、一般的に起こりやすいつまずき方です。


なお、どの程度のズレまでなら許容できるかは、使う場所や仕上げの種類によって変わります。一律の基準があるわけではないので、気になる箇所は早い段階で製作側に相談しておくと安心です。


愛知県が公表している建築着工統計によると、県内の住宅以外の建築物の着工床面積は2025年計で2,805,256平方メートル(前の年と比べて0.7%増)でした。店舗や事務所といった建物が継続してつくられ、また使い替えられている実態がうかがえます。

参照URL:

愛知県 建築着工統計(2025年計)




■ オーダー(造作)什器なら何ができるのか

オーダーでつくる什器は、既製の寸法に空間を合わせるのではなく、空間の実寸に什器を合わせる方法です。ですから、斜めの壁や低い天井といった条件を、制約ではなく設計の出発点として扱えます。


ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。同じ空間でも、見方を変えれば持ち味になります。


・寸法・形状・素材をどこまで指定できるのか

造作(ぞうさく/その場所に合わせてつくり付けること)でつくる場合、指定できる要素は思っているより広い範囲に及びます。


  • 幅・高さ・奥行きといった寸法
  • 角度のついた面や、曲がりを含んだ形状
  • 天板や扉に使う素材と仕上げ
  • 取っ手や金物の種類、扉の開き方
  • 分割して製作するかどうか、といった作り方そのもの

特に見落とされがちなのが、最後の「作り方」です。搬入経路の幅が足りない現場では、あらかじめ分けてつくり、現場で組み立てるという進め方が取れます。一体でつくることだけが正解ではありません。


-対応できる什器・建具の例

お店で使われるものとしては、次のようなものが挙げられます。

  • カウンター、レジ台、作業台
  • 背面収納、棚、飾り棚
  • 間仕切りや衝立(ついたて)
  • 扉、引戸、格子戸などの木製建具


・規格外の条件が、その店だけの意匠になるのはなぜ?

斜めの壁に沿ってカウンターの形を決めれば、その形は他のお店には存在しません。低い天井に合わせて建具の高さを設計すれば、空間としてのまとまりが生まれます。既製品では実現できなかった形が、そのままお店の個性になるわけです。


もうひとつ、意外と効いてくるのが素材と色味の統一です。扉などの建具と、棚やカウンターなどの家具を別々の会社に発注すると、同じ木目を指定したつもりでも仕上がりが揃わないことがあります。両方を同じ工場、同じ職人が手掛けられる体制であれば、この食い違いは起きにくくなります。


太建でも、建具と家具の両方を自社で製作し、取付まで一貫して行っています。図面をもとに機械で精密に加工する工程と、現場での手仕事による調整を組み合わせることで、角度のついた開口や特殊な寸法にも対応しています。


ただし、何でも自由につくれると言い切ることはできません。建物の構造上動かせない部分、法令上の制限、そして予算という現実的な枠は残ります。そこも含めて相談しながら決めていく、と考えていただくのが実際に近いところです。

参照URL:

国土交通省 建築物リフォーム・リニューアル調査(令和6年度計)




■ オーダー什器はどう作られる?発注から取付までの流れ

オーダーの什器は、「現場を測る→図面と仕様を決める→工場でつくる→現場で取り付ける」という順に進みます。最初の実測をどこまで丁寧に行うかで、最終的な納まりはほぼ決まります。

全体像を知っておくと、今ご自身がどの段階にいるのか、次に何を用意すればいいのかが見えてきます。


・現場実測から仕様確定までにやること

手順としては、次のような流れが一般的です。


  1. 現地で打ち合わせを行い、用途や希望のイメージを共有する
  2. 製作する側が現場を実際に測り、壁の傾きや床の高さも含めて確認する
  3. 測った寸法をもとに図面を作成し、素材や仕上げ、金物を決める
  4. 図面と見積もりの内容を確認して承認する


ここで押さえておきたいのは、実測は基本的につくる側が現地で行うという点です。お客様ご自身で正確に測る必要はありません。ですから図面が手元になくても、相談を始めること自体はできます。写真とおおよその寸法、そして使う目的が分かれば、話は進められます。


むしろ注意したいのは逆のパターンです。図面が完成するまで相談を先延ばしにした結果、着手が遅れて全体の工程が押してしまう、という状況は起こりやすいところです。


・製作から取付までで、発注側が判断する場面は?

図面を承認したあとは、工場での製作に入ります。この段階で発注側が判断を求められるのは、主に仕様変更が生じたときです。


素材の変更や寸法の見直しは、製作に取りかかる前と後とでは影響がまったく違います。着手後の変更は、材料の手配からやり直しになることもあり、納期にも費用にも跳ね返ります。決められることは早めに決めておく、というのが実務上の判断基準になります。


取付の当日は、現場での微調整が入ります。工場でどれだけ精密につくっても、建物側にわずかな傾きがある以上、最後は現場で合わせ込む工程が必要になるためです。この調整をどこまでできるかが、仕上がりの差になって表れます。


なお、製作にかかる期間は、規模や仕様、数量によって大きく変わります。ここで具体的な日数をお示しするとかえって誤解を招くため、あえて触れていません。ご自身の計画に合うかどうかは、個別にご確認いただくのが確実です。


進め方のイメージが湧かない段階でも構いません。どんな仕事をしているのか、まずはご覧いただければと思います。

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■ オーダー什器を選ぶ前に知っておきたい注意点と向かないケース

正直に申し上げると、オーダーがいつでも最適とは限りません。標準的な寸法で問題なく納まる空間や、残された期間が極端に短い場合は、既製品を使うほうが合理的なこともあります。

判断材料として、向かない場面と避けたい進め方を整理しておきます。


・オーダーが向かないのはどんな場合か

次のような条件に当てはまるときは、既製品や、既製品との組み合わせも検討する価値があります。


  • 壁も床も標準的で、既製品がそのまま納まる見込みが高い
  • 同じものを数多く揃えたく、統一感より数量を優先したい
  • デザインの方向性がまったく固まっておらず、費用だけを先に確定させたい


オーダーには、仕様を決めるための打ち合わせという手間がかかります。また、いったん決めた内容を後から変えにくいという弱点もあります。この二点は、あらかじめご承知おきいただきたい部分です。


・発注側でよく起きる、避けたい進め方は?

反対に、後から困りやすい進め方もあります。


  • 内見のときの目測だけで、什器を先に発注してしまう
  • 厨房機器などの実際の寸法が決まらないうちに、造作の寸法を確定させる
  • 搬入経路の幅を確認しないまま、大きな一体物を発注する


いずれも「先に進めたい」という気持ちから起きるもので、決して珍しいことではありません。ただ、寸法の基準になるものが決まる前に周りを固めてしまうと、後戻りの手間が大きくなります。順番だけは意識しておくと安心です。




■ 什器の前に確認しておきたい、店舗の用途変更と建築確認の話

什器や建具の計画に入る前に、その物件で「用途変更」にあたる工事が生じないかを確認しておくと安全です。規模によっては手続きの要否が変わり、間仕切りの位置や什器の配置にも影響します。

少し法令の話になりますが、後戻りを防ぐために触れておきます。


・用途変更で建築確認が必要になるのはどんな規模か

用途変更とは、たとえば事務所として使われていた区画を飲食店にするというように、建物の使い方を変えることを指します。一定の用途に変える場合には、建築確認申請(工事の前に、法令に適合しているか行政などの確認を受ける手続き)が必要になることがあります。


国土交通省の資料によると、特殊建築物への用途変更にあたって建築確認申請が不要となる規模の上限は、「100平方メートル超」から「200平方メートル以下」へと緩和されています。この改正は平成30年法律第67号によるもので、令和元年6月25日に施行されました。


ただし、この面積の要件だけで要否がすべて決まるわけではありません。建物の条件によって判断が分かれるため、必ず所管の行政庁や設計者にご確認ください。制度そのものが今後見直される可能性もありますので、最新の内容は公式の情報でお確かめいただくのが確実です。


・什器・建具の計画に、どう影響するのか

手続きが必要になると、間仕切りの位置や避難のための通路の取り方が計画に影響します。間仕切りが動けば、その壁に沿って据えるはずだった収納や、そこに入る予定だった建具の寸法も変わります。


つまり、確認を後回しにするほど、すでに決めた造作をやり直す可能性が高まるということです。什器の仕様を固める前にこの点を整理しておくと、無駄な手戻りを避けやすくなります。

お問い合わせの際に「用途変更にあたるかどうか、現在確認中です」と一言添えていただくだけでも、こちらからご案内できる内容の精度は上がります。

参照URL:

国土交通省 建築基準法改正資料(用途変更に伴う建築確認手続の合理化)




■ よくある質問

最後に、ご相談の際にいただくことの多い疑問をまとめました。


・図面がなくてもオーダー什器の相談はできる?

相談は可能です。実測はつくる側が現地で行うのが基本なので、図面がすべて揃っている必要はありません。現状のお写真、おおよその寸法、使う目的、そして希望される時期が分かれば、話を進められます。図面の完成を待つよりも、早い段階で状況を共有しておいたほうが、工程に余裕を持たせやすくなります。


・既製品とオーダーを組み合わせることはできる?

組み合わせは可能です。標準的な寸法で問題なく納まる部分には既製品を使い、柱の出っ張りまわりや斜めの壁沿いなど、納まりが難しい箇所だけをオーダーにするという進め方があります。すべてをオーダーにするより費用は抑えやすくなりますが、素材や色味を揃えるには調整が必要になる点はご承知おきください。


・オーダー什器は既製品より必ず高くなる?

必ずしもそうとは限りません。既製品を無理に納めるための加工費や、隙間を埋めるための追加の造作が発生すると、結果として総額が近づくことがあります。ただ、単価だけを並べると既製品が有利に見えるのも事実です。加工や調整にかかる費用まで含めた総額で比べていただくと、実態に近い判断ができます。




■ まとめ:規格外は妥協材料ではなく、設計の起点になる

既製の店舗什器が入らないのは、物件の問題ではありません。既製品が直角と規格寸法を前提としてつくられているためです。現場を実際に測って寸法から製作する方法に切り替えれば、変形した間取りや低い天井といった条件は、そのままお店の持ち味として活かせます。


有限会社太建は、愛知県名古屋市千種区を拠点に、東海三県(愛知県・岐阜県・三重県)でオーダーメイドの建具・家具の製作から取付までを一貫して手掛けています。1985年の創業以来、戸建て住宅から店舗、商業施設、公共施設まで幅広い現場に携わってきました。建具と家具を同じ工場、同じ職人が手掛けられる体制を持ち、二級建築士・木造建築士・二級建具技能士などの有資格者が在籍しています。精密な機械加工と職人の手仕事を組み合わせ、寸法の合わない空間にも対応しています。


既製品が入らない、寸法が合うか分からない。そんな段階でも構いません。現状のお写真とおおよその寸法、ご希望の時期をお知らせいただければ、対応できる範囲や進め方をご説明します。図面が整っていない状態からのご相談も承っていますので、まずは現場の状況をお聞かせください。


オープンの時期が決まっている場合は、早めにご相談いただくほど工程に余裕を持てます。相見積もりを検討されている段階でのお問い合わせにも対応しています。